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harutanaoki's blog

シンガポール在住 春田直樹の日記

「シンガポール・初釣行紀 ~アジアの怪物 その2~」

初めての海外フィッシングから3週連続で船出。

これだけを読めば、さぞかし釣れてるんだろうと思われるかも知れませんが、

前回を読んで下さった方はご存知の通り、シブいシブい、実にシブ過ぎる釣果。

今だったら渋柿すら甘くて食べれないだろなってぐらいの、シブみ具合。

 

 

「アジアの怪物」に出会うべく、期待という期待を重ね、1週目は10キロの魚が釣れても対応できる

頑丈な仕掛けにしたものの、数100グラムの小さな魚が数匹釣れてフィニッシュ。

2週目なんて、「南側はヤバイ」との情報に流され、15キロの魚が釣れてもオッケーな仕掛けを用意するも、

またもや数100グラムの魚が掛かり、さらには釣り上げている途中に針が折れてフィニッシュという、

壮絶な尻すぼみ具合。

あんなに尻がすぼんだ経験は、他に記憶にございません。

 

しかし、針は折れても心は折れぬということで、その日の帰りに仲良くなった、

釣りマニアのシンガポール人・エディーと3度目の正直に賭けることと相成ったのであります。

エディーいわく、

「もうこの船長に任しとけば、仕掛け入れた途端にガツンだから。ガブガブ来ちゃうから。たとえ釣れなくてもすぐ場所移るし、待つ、とか意味分かんないから。てか、待つ?って何それ、有り得ないから、ダサいからそれ。」

とのこと。

かつて一世を風靡したナンバー1ホスト・零士を思わせるその強気過ぎる発言にすっかり魅了され、

当日の朝、何とも言えない晴れやかな気持ちで待ち合わせ場所に向かったのであります。

 

思えば月曜日の時点でエディーから、

「船長、土曜日空いてるらしいから押さえといたわー。とりあえず釣り仲間ガンガン集めっからー。」

とのメッセージが届き、水曜日には、

「今7人ぐらい来るっつってるから、あと1人で定員一杯だわー。」

とのメッセージが届いておりました。

やはり現地の釣りマニアともなれば、腕利き船長に釣り仲間に、ネットワークが違うよなと、

思ったものです。

 

さてさて、満を持して待ち合わせ場所に向かうと、既にエディー以外にも2人のシンガポール人の姿が。

「ハロハロー」なんつって気軽な挨拶をしまして、

「今日は結局何人になるの?」とエディーに聞きますと、

「ブラザー、8人の予定だけど、あとの4人は来ないかも知んねぇわー、ブラザー。」

などと言いつつ、なにやら携帯でせわしなくメールを打っている様子。

 

待ち合わせ時間に、参加者8人の内4人がまだ来るかどうか分からないってどういうことだと、

軽く心臓がドキドキしつつも、エディー以外の2人に自己紹介。

1人は何となく見たことがある気がしていたら、先週の船に乗ってたベテラン釣り師・シーケー。

年は50才前後か。

「前回シブかったけど、今回の船長凄腕らしいっすねー」などと一言二言。

 そんでもう1人はと言えば、見るからに若い。圧倒的に若い。歯はビッシリ矯正してる。

年齢を聞いてみると「16才。」とのこと。

さらに、「海で釣りするのは初めてなんだ。」とのこと。

 

なんだろ・・・・。

これまでの流れからして、それなりの経験を経たこだわりのベテラン釣り師が集まるものと

勝手にイメージしておりましたが、そこへ来ての、ピカピカの16才登場。

独特の不安を感じつつも、ま、この釣りキチ少年・ショーン、もしかしたらセンス抜群なのかも知んない。

そういうことって、よくある、よくある。

 

そんなわけで、最初に直感した通り、他の参加者は1人も登場せず、

4人で船が留まっている場所まで歩いて向かうことに。

まぁ細かいことはさて置き、釣れりゃー楽しくなるってもんです。

5分ほど歩くと、目当ての船に到着し、エディーが外から大声で呼ぶと間もなく船長が姿を現しました。

 

眼光は獣のように鋭く、ガッシリとした上半身は素っ裸で、浅黒く焼けております。

昭和の名レスラー、ボボ・ブラジルを思わせるその出で立ちは、知る人ぞ知る、伝説の船長の名に

相応しいものでした。

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「こりゃ、ホンモノかも知んねぇ・・・」

 

先ほどまでの不安は一気に消え失せ、勇み足で漁船に乗り込む4人。

今日はイケル、という期待がそうさせたのでしょう。出発して早々に船内で準備を始めるメンバー。

 

「もうあれだから、すぐ来ちゃうから。ガブガブ来ちゃうから。つーかこの船長、国境際とか微妙なとこ攻めちゃうからー。ヒヤヒヤもんだからー。」

とまだ何も釣り上げていないというのに、エディーのテンションは完全に振り切った状態。

そうこうしている内に準備も終わり、そろそろポイントに到着かと思いきや、一向に止まる気配が無い。

気付いたらもう出発から1時間が経過しております。

 「言っただろー、他と全然違うとこ攻めっからー。国境際とか行っちゃうからー。」

とエディーの興奮はとどまることを知らず、

私の方も、ま、多少遠くてもとにかく釣れたら何でもいい、今日はエディーに全て任せてみようと、

大船に乗ったつもりでのんびり構えておりました。

そして、さらに30分ほどが経過した辺りで、やっとこさポイント到着。

エディーが何度も繰り返した、

 「仕掛け入れた途端にガツンだからー。ガブガブ来ちゃうからー。」

 とのフレーズが耳にこびり付いている私としては、全神経を集中して第一投目を投入したのです。

 誰の竿に「アジアの怪物」が掛かるのか・・・・・

まさに全員が生唾ゴックン状態でありました。

 

数分が経った頃、釣りキチ少年・ショーンが、

「来たぁぁぁ!スゲーよ、これヤベーよぉぉ!」と叫び始めました。

振り返ると竿が折れそうな程にひん曲がっております。

「モンスターだよこれぇぇぇ!ゼンッゼン動かねぇよぉぉ!!」

と叫んでいるものの、経験者から見れば一目瞭然、明らかに底に引っ掛かっております。

 

「あのさ、それ、底に引っ掛かってない?」

 

と、なるべく傷つけないように聞いてみるも、 

「うわぁぁぁぁ!これまじでスゲーわぁぁ!ゼンッゼン動かねぇもぉぉぉん!海釣りやべぇぇよぉぉぉ!」

 と一向に耳に入らない様子。

ベテラン釣り師・シーケーは、我が子を谷底に突き落とすライオンのような貫禄で、ひたすら遠くを見ております。

無視していた、と言っても差し支えないでしょう。

 

「まじ動かねぇぇぇ!!!俺にはでか過ぎるよコイツぅぅぅ!!!」

 と叫び続けるショーン。

そこに突如エディーが忍び寄り、 

「な、これ、底に引っ掛かってるから。な?だから動かないわけよ。な?貸してみ、竿。」

 と冷静に竿を受け取り、糸を引きちぎってあっけなく終了。

 

「なんだよー、どおりで動かないと思ったよぉぉぉ。」と残念がるショーン。

  

気を取り直して釣り始めるも、「アジアの怪物」は中々姿を現さない。

活きたエビを餌にするのですが、ピンピンの状態で戻ってくる。

すなわち、魚そのものが周辺にいない。

いや、しかしこの雰囲気、何か来る予感がする・・、

と幼少時代に磨いた釣りの直感が私にそう教えてくれていました。

インドネシアとの国境付近でポイントを変えながら、黙々と釣り続ける4人。

 

 

 

そのまま6時間が経過。

このまま何も釣れないかも知れない・・・、幼少時代に磨いた釣りの直感が私にそう教えてくれました。

開始当初は、異常な自信に満ち溢れていたエディーも、同じ人間かと思うほど寡黙になり、

「この船長、前々からダメだと思ってたんだよな」とでも言い出しそうな空気を醸し出しております。

シーケーの方は、先ほどまで我が子を谷底に突き落とすライオンのような貫禄を見せていたにも関わらず、

よく見ると、竿を持ちながら、深い眠りの底に落ちておりました。

16才のショーンはと言えば、あろうことか、餌の活きエビが泳いでいるバケツに仕掛けを投入し、

エビを釣ろうとしております。

生まれて初めて見ました。

船の上で、餌のエビを釣ろうとしている人間を・・。

もう何でもよくなってる・・。

餌のエビだろうが、釣れれば何でもよくなってる・・・。

 

現在、まともに釣りをしているのは私とエディーのみ。

しかしそんなエディーの忍耐も、ついに限界を迎えることとなりました。

 

釣りながら私もだんだん眠くなったきた頃、ふと背後が騒がしいことに気付いたのです。

どういうわけか、船も激しく揺れております。

なんだろ?と思って振り返ってみますと、エディーとショーンが向かい合って立っており、

これからゴングでも鳴るのかというようなポーズを構えております。

 

「・・・右ぃぃ、左ぃぃ、そう、でもっと脇閉めてー!そう、右足もっと出してー!そぉそぉー!いやもっと左足引いてー!右ぃぃ、左ぃぃ、ほぅらガード下がってるよぉぉ、やられるよぉぉ!」

 

と、まさかまさかのムエタイ指導が実施されておりました。

いや百歩譲って、確かにエディーは細身で肌も浅黒く、ムエタイボクサーっぽいけども、

一体釣りからどういう流れでムエタイに発展したのか全く想像が付かない。

しかも国境付近の船上で。

水深65メートルの沖合いで。

波の揺れが腰を強くするとでも言うのかと。

ヒクソンでもそんなトレーニングしてないわと。

 

「待つ?って何それ、有り得ないから、ダサいからそれ。」

なんてエディーは散々言ってたけども、待つぐらいならムエタイって、それは何か違う気がすると。

そうこうしている内に、ボボ・ブラジルから帰りの合図・・。

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思わず「ナンダコレ」と日本語で呟いてしまいました。

いやしかし、そうとしか言いようの無い悲惨な結果でありました。

小魚しか釣れなかった2週間前、帰る間際にやっと釣れた小魚を取り逃した先週が、もはや輝きを帯びて思い出されました。

あの頃幸せだったんだなーオレって。

 

今回なんて、ショーンが底に引っ掛けて騒ぎまくった後、ピクリとも変化がないまま時間だけが過ぎ、

最後はムエタイで船が激しく揺れて終了という、悪夢さながらの一日でありました。

完全にシンガポールでの釣り、いや、もはや釣りそのものにトラウマを抱えてしまいそうな心境であります。

 

ちなみに帰り道でエディーは「ブラザー、俺、しばらく釣りやめるわー。」って言ってました。

そんでその3日後、「ちょーでけぇリール買いそうになったわー、ブラザー。」ってメール来ました。

買わなかったのかよ・・。

 

いやしかしエディー、強いよお前。 お前、強いよ・・。

  

そんなエディーの強さに触発され、私もトラウマを抱えつつ、翌週も繰り出そうと計画しておるのです。

もちろん、エディーとは一旦別行動ですが・・。

 

<完>

 

※今回も有難うございます。次回は12月22日に更新致します。