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harutanaoki's blog

シンガポール在住 春田直樹の日記

シンガポール便り ~ヘイズに浮かぶ国会議事堂~

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こんばんは。 

こちらシンガポールは現在、どこもかしこも白い煙に覆われています。

あまりに濃いため、マスクも大量に売れているそうです。

聞くところによると、インドネシアの焼畑農業の煙が風に乗って飛んで来るのだそうです。

「haze(ヘイズ)」と呼ぶのだそうです。

 

そういえば去年の9月、初めてシンガポールに来た時に、

海辺でこの匂いを感じたことがありました。

その時は、

「ほっほぅぅ、これが南国の香りってやつか・・。

どこか香ばしいような、微かに甘いような。なんだかムードあるよね・・。」

と一人で悦に入っておりました。

しかし“シンガポールに漂う南国の香り”など、実際はどこにも無かったのです。

あの夜の私は、ひたすら“他国の木材が燃えた煙”を吸引していたのです。

 

 

格好よく生きるのは難しいものです。

例え住む場所は変わっても、私は私のままなのであります。

これまでにも、“愚かな勘違い”というものを度々垂れ流して参りました。

 

大学進学で高知を離れ、初めて東京に住み始めた時のこと。

なぜか、大きな建物を見る度に

「あれだな、国会議事堂ってやつは・・。」と勘ぐる癖がありました。

右も左も分からない大都会で、ましてや政治家志望というわけでもないのに、

“大きな建物=国会議事堂”という奇妙な図式のみを、携えておったのです。

 今思えば不思議なことです。

 

とある夕暮れ・・・、同じく東京に来たばかりの大分出身の友人“イチ”と、

二人して茅場町を歩いておりました。

生まれて初めての茅場町は雨上がりで、

ちょうど今夜のシンガポールのように、薄っすらと霧がかっておったのを憶えております。

ふいにイチが遠くの建物を指差して、

「あのでかい建物は何だろ?」と聞くものですから、

心に浮かんだままに、「あぁ・・、国会議事堂でしょ。」と答えたのでした。

それまであらゆる大型建造物に対して国会議事堂の疑いをかけてきた私でしたが、

あの日のそれは、まさに“過去最高潮に”国会議事堂だったのです。

 

言葉にはせずとも、それを聞いた彼の顔には、私に対する畏敬の念と、

国会議事堂を知らない自らに対する羞恥の念が、ありありと滲み出ておりました。

少なくとも私の目にはそう映りました。

私は彼の数歩先を、茅場町の駅に向かって、悪くない気分で歩いてゆきました。

 

その数日後です。

学校の食堂で、イチを含む数人で昼ごはんを食べておりました。

するとひょんなきっかけでその日の話題になり、

間もなく東京育ちの“ヤス”の口から

「茅場町に国会議事堂は無いよ。」という、驚愕の事実が滑り出て参りました。

 イチは床に転げ落ち、壊れた人形のように笑い始めました。

 東京育ちのヤスの口に、疑う余地などあるはずもない。

”我が耳を疑う”とはまさにこのことです。

 

 

「国会議事堂じゃない・・!?」

 

「あんなにデカかったのに・・!?」

 

 

“大きな建物=国会議事堂”という謎の図式の矛盾を突かれ、目を白黒させる私。

イチはかなりの長時間、そのまま腹をかかえて笑い続けておったと思います。

数日前、霧がかった茅場町で「あぁ、国会議事堂でしょ。」と悠然と答えた私。

いわゆる“東京ツウ”として、彼の数歩先を颯爽と歩いていた私。

あれは一体何だったのか・・・。

 

 

 

ただ一つ救いがあったとするならば、食堂での私は、「え!違うの!?」と赤面しつつも、

一緒に笑っていたことでしょう。

もし何かの間違いで妙なスイッチが入ってしまい、

「国会議事堂でしょ。」と主張し続けていたならば・・・、

“楽しい大学生活”という名のスイッチは、間違いなくオフになっていたでしょう。

 

 

格好よく生きるのは、難しいものです。

それ以来、“大きな建物=国会議事堂”というあまりに簡単過ぎる図式に頼ることは無くなりました。

 

 

 

インドネシアから飛んできた「ヘイズ」・・・。

まさか15年も昔のほろ苦い記憶を運んでくるとは、思ってもみませんでした。

未だに私のどこかで燻り続けていたのでしょうか。

 

皆様もどうか、心の奥底に潜む“奇妙な図式”にだけは気を付けて頂きたい。

 

 

夜も深くなって参りました。

まだまだ仕事にも慣れず、視界にはモヤがかかっておりますが、明日もいつものごとく出社致します。

それだけは確かに見えております。

それでは今日は此の辺で・・・。

おやすみなさい。